保育士の処遇改善加算は、2013年に「保育士処遇改善等加算」として始まり、その後は形を変化させながら、保育士の賃金改善や離職の防止、保育の質の向上を目的に運用されています。ただ、数年おきに制度が変化しているため、内容が分かりにくいと感じる職員の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、幼稚園・保育園・こども園の職員の方に向けて、処遇改善等加算の概要や、2025年度(令和7年度)から開始された一本化について紹介します。ぜひ最後までお読みください。
◎処遇改善加算とは?保育の質を高める重要な制度
まずは、処遇改善加算の目的や仕組みを紹介します。
処遇改善加算の目的
処遇改善加算の大きな目的は、保育・教育現場を支える保育士や幼稚園教諭などの人材確保と定着です。保育の質は、子ども達と関わる職員の専門性や経験に大きく左右されますが、他の業種と比較しても賃金水準が低く、責任の重さに対して給与が見合っていないことなどが、人手不足や離職率の高さの一因になっています。
国は、処遇改善加算によって職員の給与水準を引き上げることで、やりがいを持って長く働き続けてもらうことを目指しています。職員が定着すると、質の高い教育・保育の提供と、安定した園の運営ができます。
処遇改善加算は、職員の給与を上乗せするための制度のため、加算による改善額を除いた賃金水準が、前年度(基準年度)の水準を下回らないことが求められます。 この比較を公平に行うため、年度途中の入退職者や休業者の影響を除くための計算調整を行うことが必要です。
また、給与面の見直しにより、現在は保育現場を離れている潜在保育士や、これから保育士・幼稚園教諭を目指す人が「保育業界で働きたい」と魅力を感じられることも期待されています。
職員の定着や働く意欲につながる仕組み
処遇改善加算は給与を一律で上げるのでなく、職員の経験や技能の向上に応じて加算される仕組みである「キャリアパス要件」を設定しています。キャリアパス要件とは、保育士が経験や能力に応じてキャリアアップしていくための基準を指すものです。
園が、職員の経験や役職に応じた昇給・手当の仕組みを整備したり、職員の研修計画を策定などの基準を満たしたりすると、処遇改善加算の対象になり、職員の給与アップにつながります。また、キャリアアップの基準が明確になることで、職員のやりがいやスキルアップにつながり、チーム力の強化が進みます。
処遇改善加算の対象となる施設と職員
処遇改善加算の対象になる施設は、子ども・子育て支援新制度に移行している幼稚園、認可保育所、認定こども園、小規模保育事業などの地域型保育事業所です。上記の施設で働く職員が対象ですが、区分によって支給対象者が分かれています。
| 内容 | 対象者となる職員 | |
|---|---|---|
| 区分1 ・ 区分2 | 職員の賃金や職場環境を改善し、人材確保につなげる | 職員の賃金や職場環境を改善し、人材確保につなげる 原則として全職員(1日6時間以上かつ月20日以上勤務する非常勤職員も含む) 保育士や幼稚園教諭だけでなく、事務職員、調理員、栄養士、スクールバスの運転手なども対象 |
| 区分3 | 技能・経験の向上に応じて賃金を改善する | 特定の研修を修了した職員 ・副主任保育士 ・中核リーダー ・職務分野別リーダー ・若手リーダー その他、園長以外の管理職も、賃金バランスを踏まえて必要であれば支給対象になる |
また、新制度に移行していない私学助成幼稚園では「教育支援体制整備事業費交付金」、企業主導型保育園などの認可外保育施設では、自治体が独自に設定する補助金が適応されることがありますので、都道府県や市区町村に確認してみてください。
◎処遇改善等加算Ⅰ~Ⅲの一本化まとめ
ここからは、2025年度から開始された、処遇改善加算の一本化の概要や旧制度との違いを紹介します。
処遇改善等加算Ⅰ~Ⅲの一本化の概要
従来の「処遇改善等加算Ⅰ~Ⅲ」は制度が分かりにくく、事務作業も負担が大きかったことから、2025年度から一本化されました。園の事務的な負担を軽減するとともに、各園の実情に応じて職員の賃金を柔軟に改善できるようにすることが目的です。
次のこども家庭庁の資料をご覧ください。
引用:こども家庭庁「令和7年度以降の処遇改善等加算について」
内容は旧加算の内容をベースに、より分かりやすく、現場の負担が減少するような形で設定されています。
制度の構造が整理されたことで、園は複雑な計算や配分ルールに悩まされず、職員のキャリアや貢献度に応じた給与体系を設計しやすくなりました。
旧制度(処遇改善等加算Ⅰ~Ⅲ)との違い
1.事務手続きの簡素化
旧加算では、I・II・IIIのそれぞれに賃金改善計画書や実績報告書が必要で、書類作成が非常に煩雑でした。
一本化によって申請様式と実績報告様式が統一され、実績報告書は最大3枚に削減されます。また、賃金計画書の提出は原則として廃止され、賃金改善を行う旨の誓約書の提出で代替されるようになりました。
2.配分ルールを柔軟に
旧加算Ⅱでは「副主任保育士等」の役職者に対して月額4万円(または対象者の半数に月額4万円)を配分する要件がありました。しかし、職員構成によっては月額4万円の賃金改善の対象となる職員を決められない、金額を固定されることで他の職員とのバランスがとりにくくなるなどの問題がありました。
一本化への移行に伴い、1人あたり4万円を超えない範囲で調整が可能になり、特定の役職だけでなく、園の実情に応じて若手や中堅、全職員のベースアップなど、より柔軟な賃金改善が可能になっています。
3.キャリアパス要件
先述のとおり、職員が将来の見通しを持って働けるよう、職員の役職に応じた賃金体系の整備と、資質向上のための計画・研修実施を求める要件です。
保育者の役職や要件は、次のようなものがあります。
| 主な要件 | 役割のイメージ | |
|---|---|---|
| 職務分野別リーダー 若手リーダー | おおむね3年以上の経験+自身の専門分野の研修修了 | 乳児保育・幼児保育・障がい児保育士・食育など、特定分野を担当 |
| 専門リーダー | おおむね7年以上の経験+自身の専門分野の研修修了 | 乳児保育・幼児保育・障がい児保育士・食育など、特定分野の専門家として園全体の取り組みをリードする |
| 副主任保育士 中核リーダー | おおむね7年以上の経験+リーダー経験+研修修了 | 主任保育士の補佐(現場リーダーとして職員をサポート) |
| 主任保育士 | 豊富な経験+マネジメントなどの研修修了 | 園全体の保育方針や職員育成を担う |
※園によって名称が異なる場合があります
旧制度では、主に加算Ⅰの算定要件として位置づけられていましたが、一本化に伴い、位置づけと適用方法が大きく変更され、区分1(旧加算Ⅰ)は要件化されることになりました。
| (旧)処遇改善等加算Ⅰ | (新)処遇改善等加算:区分1 | |
|---|---|---|
| 位置づけと目的 | 処遇改善等加算Ⅰの賃金改善要件の一つ | 処遇改善等加算の区分1(基礎分)必須要件に昇格。職場環境の改善という観点から要件化 |
| 加算への影響 | 加算への影響 キャリアパス要件を満たさない場合は加算率が2%減 | 区分1の適用を受けるための必須要件となる。キャリアパス要件に適合しない場合は、原則として区分1の加算が適用されない。 |
| 経過措置 | なし | 2025年度(令和7年度)に限り、経過措置が設けられる。キャリアパス要件に適合しない場合は、区分2の割合からキャリアパス要件分の割合を減じることとなる。 |
| 対象 | 全職員を対象とした制度・計画の整備を求める | 全職員を対象とした制度・計画の整備を求める。 |
認定を受けるには、施設・事業所の取り組みが、次の2つの要件に適合するか、区分3(キャリアアップの仕組みによる質の向上分)の適応を受ける必要があります。
1,賃金体系の整備:職位や職責に応じた賃金体系を定め、就業規則などで書面化し、全職員に周知する
2,資質向上の計画:職員と意見交換の上、研修計画(研修実施とフィードバック、資格取得支援など)を策定し、周知する
2025年度は経過措置が設けられていますが、2026年度からはキャリアパス要件を満たすことが加算算定の必須条件となります。
◎園の種別ごとの処遇改善加算の違い
保育施設の種類によって、処遇改善加算の適用や運用のポイントは異なります。それぞれの注意点を紹介します。
職位の名称の違い
区分3における職位の名称の違いが、幼稚園と保育園は異なる部分があります。以下の表でご確認ください。
| 幼稚園 | 保育所・地域型保育事業所 | 認定こども園 | 研修終了数 | |
|---|---|---|---|---|
| 人数A (月4万円までの処遇改善) | 中核リーダー、専門リーダー | 中核リーダー、専門リーダー 副主任保育士、専門リーダー | 副主任保育士等または中核リーダー等、専門リーダー | 副主任保育士等または中核リーダー等、専門リーダー 4分野 or 60時間以上 |
| 人数B (月5千円までの処遇改善) | 若手リーダー | 職務分野別リーダー | 職務分野別リーダー等または若手リーダー | 1分野 or 15時間以上 |
なお、指導教諭、教務主任、学年主任など、既存の役職名がある場合は、代替できます。
基礎職員数の算出方法
区分3の加算額算定にあたって、基礎職員数の算出が必要ですが、園の種別によって算出方法が少し異なります。基本的には、年齢別配置基準による職員数や、年齢別の配置基準に応じた職員数など、各種加算・減産の適用状況を合算して算出されます。
次の表に、主な加算対象項目をまとめましたので、ご覧ください。
| 幼稚園 | 保育所 | 認定こども園 | |
|---|---|---|---|
| 定員規模に応じた加算 | ○ | ○ | ○ |
| 年齢別配置基準による職員数 | ○ | ○ | ○ |
| 講師配置加算 | ○ | × | ○ |
| チーム保育加配加算/チーム保育推進加算 | ○ | ○ | ○ |
| 給食実施加算(自園調理) | ○ | × | ○ |
| 栄養管理加算 | ○ | ○ | ○ |
| 事務職員配置加算/事務職員雇上加算 | ○ | ○ | ○ |
| 保育標準時間認定の児童 | × | ○ | ○ |
| 休日保育加算 | × | ○ | ○ |
| 通園送迎加算 | ○ | × | ○ |
(参照:こども家庭庁「処遇改善加算Ⅲ 加算対象職員数計算表」)
これらをもとに、月額4万円改善の対象人数(人数A)は「基礎職員数×1/3」、月額5千円改善の対象人数(人数B)は「基礎職員数×1/5」を基本として算出されます。
◎処遇改善加算の申請から報告までの流れ
一本化開始により、申請様式は簡素化されましたが、職員ごとの加算額の計算や配分計画、実績の集計などの作業は複雑です。ここからは、処遇改善加算の申請や報告の流れを紹介します。自治体によって詳細が異なりますので、必ず確認をしてください。
| 時期 | やること | |
|---|---|---|
| 申請 | 加算の適用を受けようとする年度(加算当年度)の初め | 必要な書類を施設・事業所の所在する市区町村の長、または指定都市等の長に提出 |
| 賃金改善の実施 | 加算当年度の間 | 認定を受けた加算額に応じて、賃金改善を進める キャリアアップの研修計画を進める |
| 実績報告 | 加算当年度の終了後(翌年度すぐ) | 市町村の長に対して実績報告書を提出 |
1.加算認定の申請手続きを進める
まずは施設や事業所がある市区町村などに、申請に必要な書類を提出します。自治体によって提出期限や独自の加算が設定されている場合があるため、必ず確認してください。あわせて、就業規則などの賃金に関わる規定を書面で整備しておきましょう。
自治体が内容を審査して受理されると、当該年度の加算が決定されます。提出が遅れると、加算の支給が遅れるため、スケジュール管理が大切です。
2.賃金改善を進める
計画に沿って、賃金改善を進めます。キャリアパス要件のための研修受講申し込み、受講に伴うシフト調整なども計画的に行いましょう。
万が一、経営悪化などの特別な事情があり賃金水準を引き下げる必要があるときは、労使の合意の下で賃金水準を引き下げる特例措置が認められます。別紙様式7「特別な事情に係る届出書」の書式に沿って、事業の状況や引き下げの内容、改善の見込みなどを記入して提出します。
3.実績報告書を提出する
加算を受けた施設は、年度終了後に実績報告書を提出する義務があります。提出時期は、年度終了後の翌年度、例年7月末頃が期限とされることが多いです。
報告書では、実際に受け取った加算金の総額と、職員に支払った賃金改善額の総額を比較します。もし加算金の受給額よりも賃金改善額が少なかった(使い残しがあった)場合、差額は原則として自治体へ返還が必要です。
◎処遇改善加算に関するQ&A
よくある質問をピックアップし、Q&A形式で解説します。
Q.パートや派遣職員、育児休業中の職員も対象になる?
パート・アルバイトなどの非常勤職員、派遣職員も加算の配分対象に含められますが「1日6時間以上かつ月20日以上勤務する職員」など、基準が設けられている場合があります。時給・日給で雇用される職員は、加算当年度と勤務時間や日数をそろえて計算します。
派遣職員については、派遣元の事業者が処遇改善加算の届け出を行っていることが前提です。園は、賃金規程などに基づき、対象者の範囲や配分ルールを明確に定めておく必要があります。
育児休業中の職員も対象ですが、育児休業中に給与が支払われていない場合は、その期間の改善額は0円となります。
Q.年度途中の入職者・退職者の手当はどうなるの?
年度途中に職員が入職・退職した場合、処遇改善加算で求められる「賃金水準の維持」を公平に判断するため、賃金比較や対象者の扱いに調整が必要です。退職者は比較対象外とし、中途入職者は同水準の賃金が前年度も支払われたと仮定します。休業している職員は、休業中に給与が支払われていない期間の影響を除外し、休業前の給与水準を基準にして計算します。
区分3(質の向上分)は、原則4月1日時点の研修修了者で算定しますが、年度途中の採用や研修修了者も条件を満たせば対象にできます。
Q.職員へ説明するときのポイントは?
処遇改善加算の趣旨と園の配分ルールを明確に伝えることが大切です。加算金は職員の賃金改善のために支給されるものなので、配分方法が不透明だと職員の不満や不信感につながります。
処遇改善加算は、職員の賃金改善のためだけに使われる前提を伝えたうえで、役職・経験年数・人事評価などに基づくルールを示しましょう。一本化により、園の裁量で配分できる部分が広がったからこそ、配分ルールや内訳を客観的に説明できると、職員からの信頼が高まります。
◎まとめ:制度を理解して職員満足度と保育の質向上を
処遇改善等加算の制度は複雑ですが、仕事の評価が自分の給与に反映されることで、職員の満足度が向上します。それぞれの職員がスキルアップし、チーム力を高めていくことで、結果的に保育の質の向上につながるでしょう。
制度を活用するためには、制度の理解と情報収集が不可欠です。国や自治体の最新の情報を確認しながら、制度を活用していきましょう。
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