イベントレポート:現場の先生と保育を考えるセミナー ~最高の「保育の質」を、最高の「働きがい」から生み出すために~
2025年10月23日(木)、幼稚園・保育園・認定こども園向けICTシステム「園支援システム+バスキャッチ」を提供するVISH株式会社と、ドキュメンテーションツール「おうちえん」を提供する株式会社スマートエデュケーションが共催し、オンラインセミナー「現場の先生と保育を考えるセミナー〜人気園の経営者と考えるこれからの園と保育の質〜」を開催しました。
全国で支持される人気園の園長3名と、ICT企業のキーパーソン2名、計5名(40代前後)が集結し、「選ばれる園の条件とは?」「先生が主体的に輝ける園づくりとは?」「育ちの可視化は面倒な作業?」といった、普段のセミナーでは踏み込みにくいリアルなテーマについて、90分間にわたり熱量の高いクロストークを展開しました。
本レポートでは、現場の先生方の挑戦と本音を掘り下げつつ、明日からの保育のヒントをお届けします。
目次
登壇者紹介
・松本 幸真 氏(南八幡幼稚園 園長)
・藤田 正喜 氏(久留米あかつき幼稚園 園長)
・大熊 啓太 氏(足立みどり幼稚園 理事長)
・西尾 真吾 氏(VISH株式会社)
・三浦 絢子 氏(株式会社スマートエデュケーション)
はじめに:効率化の先に目指す「先生の創造性」
協業の背景:効率化と質の向上を両立させるビジョン
セミナーは、VISHとスマートエデュケーションの両社サービス連携の背景から幕を開けました。それは「業務効率化」と「幼児教育・保育の質の向上」という二つの側面を両立させるという明確なビジョンです。
VISHの西尾氏は、「園支援システム+バスキャッチ」が目指してきたのは、保護者との連絡や登降園管理といった先生方の業務負担を軽減し、その結果として、本来力を注ぐべき保育の質の向上や保護者満足度の向上に寄与することだと紹介しました。
一方、スマートエデュケーションの三浦氏は、ドキュメンテーションツール「おうちえん」を通じて、先生方が写真や動画で記録を楽しく作り、共有することで、「保育をもっと面白く」「先生をハッピーに」したいという熱い思いを共有しました。
2021年4月よりシステム連携している両サービスは、保護者にとって日々の連絡から園の活動・育ちの様子までをスマートフォンで一気通貫で共有することを可能にしています。これは単なる効率化に留まらず、ICTが先生方の内側からわき出るやる気を高め、より創造的な保育活動に時間を振り向ける時間創出のツールとして機能していることを示唆しています。
テーマ1. 選ばれる園の条件:立地の不利を覆す「共感」のデザイン
「立地」という変えられない現実、その先にあるもの
園長先生方は対談の冒頭、「立地」が園選びにおいて無視できない要素であることを認めます。しかし、足立みどり幼稚園の大熊先生が「立地で言いますと、当園は埼玉県志木市という小さい街の端にあり、駅から徒歩40分くらいの場所で、市内で最も不便な立地にある」と自園の状況を明かしたことから、議論は本質的な差へと深まります。
立地の不利を乗り越えるために何をすべきか。大熊先生は、外向けな発信もあるものの、まずは「地域に園がどう認識されているかが大事である」と、足元の地域との関係性を重視する姿勢を切り出しました。
鍵は「共感」の設計:保護者との「信頼」を深めるための体験戦略
立地を超えて選ばれるための鍵として、大熊先生は「共感」をデザインすることの重要性を語ります。これは、保護者の方が園で得る体験や喜びを設計することに通じる視点です。
・体験の想像を促す(入園後の楽しさを伝える)
「こんな保育をしています」という内容説明だけでは不十分です。保護者が「この園に入ったら、うちの子は、そして私たち家族は、どんな体験ができるのだろう」と具体的に想像できるような発信の工夫やイベント設計が重要になります。
・選択の肯定(「選んでよかった」という満足感)
入園後、保護者に「この園を選んで本当に良かった。あなたの選択は正しかったですよ」と感じてもらうための継続的な働きかけこそが、園への満足感を高め、ポジティブなクチコミに繋がります。
南八幡幼稚園の松本先生も、「保護者説明会で話す内容と、入園後のギャップがない園」こそが、高い園への愛着を生むと共感しました。久留米あかつき幼稚園の藤田先生は、園運営に携わる中で、「自分たちが思っている以上に、自園は地域の保護者に知られていない」という核心を突く現実に気づき、園と地域住民が交流する「マルシェ」を開催するユニークな取り組みを紹介。これは、園を単なる施設ではなく、地域と一緒に価値を作り上げる場と捉え、地域との繋がりを深める活動を実践する好例です。
そもそも「選択肢」に入っているか?
どんなに質の高い保育を展開しても、保護者の「選択肢」にすら入れなければ意味がありません 。共働き家庭が増加した現代、藤田先生は「0歳・1歳を預からない」「土曜日をやっていない」というだけで選択肢に入らないという現状を語り、2025年4月に幼保連携型認定こども園への移行を決断した背景を説明しました。
対談に参加した園長3名全員が「認定こども園」への移行という経営判断を下しています 。松本先生は、移行後に入園してきた2号・3号の園児が実は園の近隣に住んでいたことを知り、地域の保護者が求めているニーズの切実さを痛感したそうです 。これは、保護者の現実的なニーズに応え、地域にとって不可欠な存在となることが、「選ばれる」ための重要な第一歩であることを意味します。
テーマ2. 失敗を恐れない組織へ:主体性を育むマネジメントの壁
「保育の質は、先生の質に直結します。」その先生の質を最大限に高めるために不可欠なのが、自ら考えて行動する「主体性」です。では、どのようにして先生の主体性を引き出すのでしょうか。
マネジメントの難しさ:「任せる」と「放任」の境界線
松本先生は、かつて経験則からアドバイスをしすぎていたことを反省し、「内側からわき出るやる気の尊重」を意識。「やりたいと思ったことは、考えて実行する。それを僕は背中を押す」という、対話を通して成長を促す関わり方への転換を図りました。園の理念を土台とし、失敗してもいいという失敗を恐れず挑戦できる安心感のなかで、先生の主体性を育んでいます。「自分の考えたこと・意見が相手に理解してもらえたとき」が主体性の第一歩であり、基本的には「Noと言わない」ことを意識しているといいます。
しかし、全てを任せた遠足後、担当の先生が漏らした「無事に帰ってきてよかったです」という言葉に、松本先生は「任せすぎは放任ではないか」とハッとさせられた失敗談を共有。「任せる」ことと「放任」の境界線を見極める、トップとしての絶妙なマネジメントの重要性が再認識されました。
また、大熊先生は、夏祭りを先生チームに一任し、模擬店の企画・運営をしてもらった際、模擬店に熱中しすぎた先生たちが、主役である「子どもたちと関われなくなってしまった」というエピソードを語りました。先生の主体性を引き出すためには、「子どものため」という揺るぎない教育理念の軸が必要不可欠であることを痛感したといいます。
失敗を恐れずに挑戦できる「安心感」の土台
藤田先生は、究極の失敗談は「先生・保育士が辞めてしまうこと」だと語り、その原因が給与や労働時間だけでなく、「職場に対して不安だったり心配だったり、安心できてない環境を提供しちゃってたんじゃないか」という点にあると気づいたそうです。
そこで、一度「辞める」と伝えた先生が年末までなら「やっぱりやります」と言って撤回できるという画期的なルールを設けました。これにより、辞意を表明した先生を孤立させず、周りの先生たちが自然にフォローする文化が生まれ、職場全体の心が守られた、信頼し合える環境が高まりました。
松本先生の「内側からわき出るやる気」の尊重、そして藤田先生の「失敗を恐れず挑戦できる安心感」の重視は、現代の組織の在り方と深く共鳴しており、先生への深い信頼が、挑戦と失敗を許容する強固な組織文化を築く土台となっているのです。
テーマ3. 記録の真価:ドキュメンテーションは「面倒な作業」で終わらせない
日々の保育を記録し、共有するドキュメンテーションは、その重要性が高まる一方で、現場からは「忙しいのに仕事が増える」という声も聞かれます。
記録の真の目的:監査ではなく「振り返り」と「対話」へ
VISHの西尾氏は、「ドキュメンテーションや記録は監査のためか、教育・保育のために書かれているのか、共通認識されていますか?」と問いかけ、目的意識のズレを指摘しました。「2歳まではこと細かく書いていた連絡帳が、3歳で簡素になり冷たく感じる」というSNSにあふれる保護者の声は、記録が「監査のための作業」に陥っている可能性を示唆します。
大熊先生は、ドキュメンテーションの真の目的は単なる「報告」ではなく、「共感の創出」にあると断言します。
1.保護者からの共感
子どもの家庭とは違う一面を伝え、園の保育への理解と共感を深める。
2.先生同士の共感
対話・コミュニケーションを生み、お互いの保育に共感し合うことで、園全体の質を高める。
さらに、記録するという行為は、保育者自身に「なぜこの活動を行ったのか」という意図を言語化させ、子どもの姿を深く観察する機会を与えます。つまり、ドキュメンテーションは、保育者自身の学びを促す「保育を振り返り、明日につなげる学び」のための強力な教育ツールでもあるのです。
「おうちえん」の役割:育ちの可視化から生まれる質向上サイクル
スマートエデュケーションの三浦氏は、「保育ってもっと面白くなるよね」という結論から、ドキュメンテーションツール「おうちえん」の役割を紹介しました。それは、「育ちの可視化」が「育ちの共有・対話」を生み、それが「環境設定・保育の実践」へつながるサイクルを円滑に回すための「伴走者」となることです。
先生・保育士同士の「伴走・共感」や、保護者との「共有・共感」のサイクルが重なることで、先生方や保護者の自信、そして次の課題に向かう力につながります。これは、写真や動画を通じて「園児一人ひとりの理解を深める」「保育者自身の振り返りを促す」「他の先生の保育を認め合う」一助となることを目指しており、この手法を有効活用してほしいというメッセージでした。
(参考サイト)ドキュメンテーションツール「おうちえん」:https://i.ouchien.jp/
「園支援システム」の役割:業務効率化と「組織の資産」となる記録の活用
VISHの西尾氏は、業務効率化機能と統合された「活動報告機能」の独自性を強調しました。この機能は、園児管理や欠席連絡といった日々利用する基本機能と一元化されている点が最大の特徴です。
その役割は、保護者との共有を主目的としたドキュメンテーションとは一線を画します。先生が日々の気づきや子どもの姿を「様式や型にこだわらず」「良いことも悪いことも」自由に書き残すことで、記録は単なるデータとして残るだけでなく、先生自身の「記憶」として定着します。さらに、ICTの利点により、いつでも瞬時に検索・共有できるため、過去の記録を質の高い「振り返り」へと繋げることができます。西尾氏は、この「情報の宝庫」を、保育の質を積極的・継続的に向上させるための「組織の資産」として活用することを促しました。
(参考記事)「情報の宝庫、ここにあり」 – 園の日常が新たな形で繋がる、活動報告機能の魅力:https://blog.buscatch.com/2024/03/11/12882
アナログが紡ぐ「軌跡」:子どもの成長を物語として大切に残す「あかつきノート」
久留米あかつき幼稚園の藤田先生は、「おうちえん」での日々の発信に加え、「あかつきノート」という40年近く続くアナログな実践を紹介しました。これは、担任の先生と保護者が2週間に一度、手書きで子どもの姿や育ちを綴り合う「交換日記」です。写真や動画では届けられない、その瞬間の前後・背景を含めた温かみや深みは、手書きならではのものです。
これは、子どもの成長を一つの「物語(ストーリー)」として共有し、その軌跡を人生の財産として残すという久留米あかつき幼稚園の哲学を具現化しています。 さらに藤田先生は、このノートが「1人1人を大切にする」という理念を具現化していると語ります。先生はすべての子どもを深く観察しなければ何も書けず、「1対20」のクラス運営であっても、すべての園児と「1対1の関係」を築くきっかけになるのです。
驚くべきことに、この「あかつきノート」は職員同士の人材育成にも応用されています。入社1年目の先生には、2・3年目の先輩が「先生のあかつきノート」を書き、その日の頑張りや成長を綴って渡すのです。これは、職員間のお互いを支え合う関係づくりやチームづくりの役割まで果たし、保育の質を高めるサイクルを生み出しています。
デジタル(おうちえん)が「共創の広がり」を生むのに対し、アナログ(あかつきノート)は「軌跡の深み」を刻む。媒体は違えど、その本質は、ドキュメンテーションを単なる記録ではなく、対話のきっかけへと昇華させている点にあるのです。
テーマ4. 人気園の未来図:地域と先生を巻き込む「共生のハブ」へ
セミナーの最後の議論は、「これからの時代に本当に必要とされる園の姿」へと収斂しました。
「人気」の定義が変わった:園に関わるすべての人との繋がりが大切
VISHの西尾氏は、業界に来た15年前から「人気園」の定義が大きく変わったと指摘します。
これからの園は、単に子どもを預かる場所ではなく、障害の有無に関わらず全ての子どもや家庭、さらには地域住民や企業といった園に関わるすべての人と「共生」していく、地域のハブとなるべき存在なのです。
地域のエコシステムのハブとなる
大熊先生の「どうやったらもっと地域に役に立てるか」という視点や、藤田先生の「地域からの必要度が上がれば上がるだけ、園児数は自然と増えてくる」「必要とされるために切磋琢磨し内容が磨かれ質が向上していく大きなサイクルが回っていく」という言葉は、多機能化(学童、発達支援など)を通じて地域社会のつながりや、助け合える関係性を創り出す拠点となることが、園の持続的な発展に繋がることを示唆しています。
藤田先生が感じる人気園に共通していることは「そこで働く先生方を見て、誰が1年目かわからない、経験年数を感じさせない」という、組織としての強さと人材育成の確立にあると語り、改めて組織文化と育成の重要性を強調しました。
良い保育を「伝える努力」:広報戦略の重要性
大熊先生が語る「良いことをしていても、伝わらなければ意味がない」という言葉は、広報の努力が不可欠であることを示しています。
1.当たり前を疑う
園の中では常識でも、保護者にとっては未知の世界。「認定こども園とは何か?」「ドキュメンテーションで何を目指しているのか?」など、一つひとつを丁寧に発信することが信頼に繋がります。
2.新しいツールを使いこなす
InstagramなどのSNSを活用し、園の日常や魅力を視覚的に、リアルタイムに伝える。
3.若手の感性に任せる
学生に年齢が近い若い先生たちの感性は、園児募集や採用活動において、保護者や未来の先生に共感を呼ぶメッセージを発信するための最大の武器となります。
最後に:未来の保育を見据えて:挑戦が生み出す最高の「やりがい」
「選ばれる園」とは何か。それは、保護者や地域との「共感」をデザインし、先生の「主体性」を育み、子どもの育ちを丁寧に「振り返り、明日につなげる学び」とし、地域社会と「共生」する園のことでした。今回の90分間にわたるクロストークは、これら4つの柱が、これからの保育業界で働くことの大きなやりがいと無限の可能性を示してくれました。
最後に、2人の園長の熱いメッセージを改めてお届けします。
「僕たちが楽しんでる姿を見せて、やりがいを感じてもらえるようにする」 (松本先生)
「俺達、頑張ろうぜ!…みたいな」 (大熊先生)
この仕事は、決して楽なことばかりではありません。しかし、子どもの成長という何物にも代えがたい喜びに満ち、地域社会の未来を創る、誇り高い仕事です。今回のクロストークが、先生方自身のキャリアを考え、未来へ踏み出すための一助となることを心から願っています。
参照
南八幡幼稚園 https://www.minamiyahata.jp/
あだちみどり幼稚園 https://adachi-midori.com/
久留米あかつき幼稚園 https://www.fujitagakuen.ed.jp/
株式会社スマートエデュケーション https://smarteducation.jp/
おうちえん https://i.ouchien.jp/
VISH株式会社 https://www.vish.co.jp/
園支援システム+バスキャッチ https://www.buscatch.com/kindergarten/
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